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福岡地方裁判所 昭和44年(行ウ)33号 判決

北九州市八幅区前田三丁目七番一一号

原告

八幡板金工業株式会社

右代表者代表取締役

国分嘉一郎

右訴訟代理人弁護士

榎本勲

松田哲昌

北九州市八幡区本町五丁目

被告

八幡税務署長

三角隆

右訴訟代理人弁護士

国武格

右指定代理人

中島亨

小林淳

大神哲成

神田正慶

鳥谷吾郎

主文

一、被告が原告に対し昭和四三年五月二五日付でなした原告の(1)昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度における法人税につき、その所得金額を四二〇万二、八七六円とした更正決定のうち、所得金額三九一万三、二二三円を超える部分(ただし福岡国税局長の裁決により取消された二八万円を除く)

(2) 昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度における法人税につき、その所得金額を八五四万

三、七七四円とした更正決定のうち、所得金額七六八万二、八七一円を超える部分(ただし福岡国税局長の裁決により取消された八四万五、四二〇円を除く)

はいずれもこれを取消す。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

「被告が原告に対し昭和四三年五月二五日付でなした原告の(1)昭和三九年四月一日から昭和四〇年三月三一日までの事業年度の法人税につき、その所得金額を二二七万四、一八五円とした再更正決定のうち、所得金額九七万四、一八五円を超える部分(ただし福岡国税局長の裁決により取消された部分三〇万円を除く)、(2)昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度の法人税につき、その所得金額を四二〇万二、八七六円とした更正決定のうち、所得金額二九七万六、四五三円を超える部分(ただし福岡国税局長の裁決により取消された二八万円を除く)および(3)昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度の法人税につき、その所得金額を八五四万三、七七四円とした更正決定のうち、所得金額五六六万六、九五四円を超える部分(ただし福岡国税局長の裁決により取消された八四万五、四二〇円を除く)はいずれもこれを取消す。

被告が原告に対し昭和四三年五月二二日付でなした、原告の昭和三九年四月一日から昭和四〇年三月三一日までの事業年度以降の青色申告書提出承認を取消す旨の処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二、被告

「原告の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は法人税法の規定に基づいて、青色申告書による申告の承認を受けた法人である。

(二)  原告は被告に対し、昭和三九年四月一日から昭和四〇年三月三一日までの事業年度(以下昭和三九事業年度という)の法人税につき、所得金額を二一万九、〇四三円、昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度(以下昭和四〇事業年度という)の法人税につき、所得金額を二九七万六、四五三円、昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度(以下昭和四一事業年度という)の法人税につき、所得金額を五六六万六、九五四円とする青色申告書による確定申告書をそれぞれ提出したところ、被告は

(1) 昭和四三年五月二五日付をもつて、

(イ) 昭和三九事業年度の法人税につき、所得金額を二二七万四、一八五円

(ロ) 昭和四〇事業年度の法人税につき、所得金額を四二〇万二、八七六円

(ハ) 昭和四一事業年度の法人税につき、所得金額を八五四万三、七七四円

とする更正決定(ただし昭和三九事業年度については、本件更正決定以前に所得金額を九七万四、一八五円とする更正決定が存したのであり、したがつて本件更正決定は再更正決定である)

(2) 昭和四三年五月二二日付をもつて、昭和三九事業年度以降、原告の青色申告書提出の承認は、法人税法一二七条一項三号によりこれを取消す旨の処分

をなし、それぞれ原告にその旨通知した。

(三)  原告は右処分を不服として、昭和四三年八月一〇日福岡国税局長に対し審査請求をなしたところ、同局長は昭和四四年二月二二日付をもつて、

(1) 前記(二)(1)の各更正決定(昭和三九事業年度は再更正決定)に対し、原処分を一部取消し、

(イ) 昭和三九事業年度の法人税につき、所得金額を三〇万円減額して一九七万四、一八五円

(ロ) 昭和四〇事業年度の法人税につき、所得金額を二八万円減額して三九二万二、八七六円

(ハ) 昭和四一事業年度の法人税につき、所得金額を八四万五、四二〇円減額して七六九万八、三五四円

とする旨の裁決

(2) 前記(二)(2)の処分に対し、審査請求を棄却する旨の裁決をなし、右裁決書謄本は昭和四四年五月三〇日、それぞれ原告に送達された。

(四)  しかしながら、前記(二)(1)の各更正決定(昭和三九事業年度については更正決定)のうち、原告の確定申告にかかる所得金額(昭和三九事業年度については更正決定による所得金額)をそれぞれ超過する部分(ただし福岡国税局長の裁決により取消された部分を除く)は、いずれも各該当年度分の所得金額の認定を誤つた違法のものであり、従つて前記(二)(2)の取消処分もこれまた何んら理由の存しない違法なものというべく、右各処分の取消を求めて本訴に及んだ次第である。

二、請求原因に対する答弁

請求原因(一)、(二)、(三)の事実はすべてこれを認める。

三、被告の主張-処分の理由

(一)  本件更正決定(昭和三九事業年度は再更正決定)および審査裁決の明細は次のとおりである。

(1) 昭和三九事業年度

(再更正決定) (裁決)

(イ) 更正所得金額 九七万四、一八五円 同上

(ロ) 工事原価否認金額 一三〇万〇、〇〇〇円 一〇〇万〇、〇〇〇円

(ハ) 認定所得金額 二二七万四、一八五円 一九七万四、一八五円

((イ)+(ロ))

(2) 昭和四〇事業年度

(更正決定) (裁決)

(イ) 申告所得金額 二九七万六、四五三円 同上

(ロ) 工事原価否認金額 九五万七、〇〇〇円 六五万〇、〇〇〇円

(ハ) 受取利息もれ 三万四、〇四三円 同上

(ニ) 交際費否認金額 三三万六、六〇〇円 同上

(ホ) 事業税認定損金額 一〇万一、二二〇円 七万四、二二〇円

(ヘ) 認定所得金額 四二〇万二、八七六円 三九二万二、八七六円

((イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)-(ホ))

(3) 昭和四一事業年度

(更正決定) (裁決)

(イ) 申告所得金額 五六六万六、九五四円 同上

(ロ) 工事原価否認金額 二一八万五、〇〇〇円 一三一万五、〇〇〇円

(ハ) 受取利息もれ 一〇万〇、〇〇〇円 同上

(ニ) 賞与引当金否認金額 四九万〇、九九〇円 同上

(ホ) 貸倒引当金否認金額 二一万〇、五〇〇円 同上

(ヘ) 事業税否認損金額 一〇万九、六七〇円 八万五、〇九〇円

(ト) 認定所得金額 八五四万三、七七四円 七六九万八、三五四円

((イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)+(ホ)-(ヘ))

(二)  前記更正決定(昭和三九事業年度については再更正決定)をなした理由は次のとおりであり、すべて適法になされたものである(ただし審査裁決によつて維持された部分についてのみ考える)。

(1) 昭和三九事業年度

(イ) 工事原価一〇〇万円の否認について

原告会社の法人税調査において発見された仮装名義の別口定期預金のうち左記のものについては、外注費を架空に計上して支払手形を振出し、その手形の操作により発生させ、あるいはその資金の出所が不明で他に資金源を有しないため、架空の工事原価を計上する等の方法により発生せしめたものと推定されるから、工事原価を否認して原告会社の所得に加算した。

(金融機関名) (預入年月日) (預金者名) (預入金額)

旭相互銀行八幡支店 昭和四〇年一月五日 米盛イト 一五万〇、〇〇〇円

同右 昭和三九年三月二二日 同右 五〇万〇、〇〇〇円

西日本相互銀行八幡支店 昭和四〇年三月一〇日 飯田俊二 三五万〇、〇〇〇円

(2) 昭和四〇事業年度

(イ) 工事原価六五万円の否認について

原告会社の法人税調査において発見された仮装名義の別口定期預金のうち、左記のものについては、外注費を架空に計上して支払手形を振出し、その手形の操作により発生させ、あるいはその資金の出所が不明で他に資金源を有しないため、加空の工事原価を計上する等の方法により発生せしめたものと推定されるから、工事原価を否認して原告会社の所得に加算した。

(金融機関名) (預入年月日) (預金者名) (預入金額)

西日本相互銀行八幡支店 昭和四一年二月一八日 原田守 二〇万〇、〇〇〇円

同右 同右 荒井健次 一五万〇、〇〇〇円

同右 昭和四〇年九月一一日 福原恵美子 三〇万〇、〇〇〇円

(ロ) 受取利息もれ三万四、〇四三円について

昭和三九事業年度の後記別口定期預金一〇〇万円のうち、昭和四〇事業年度に発生した利息を受取利息もれとして加算したものであり、その内訳は次のとおりである。

(三九事業年度定期預金)     (利息)

米盛イト名義 一五万〇、〇〇〇円 七、五〇〇円

同右 五〇万〇、〇〇〇円 二六、五四三円

(ハ) 交際費三三万六、六〇〇円の否認について

交際費のうち、使途不明の金額を否認したものであり、その内訳は次のとおりである。

工事獲得金として支出し、仮払金処理していた金額を年度末交際費に振替えた金額 三〇万〇、〇〇〇円

進物用として昭和四〇年一二月三一日に交際費に計上した金額九万〇、一六〇円のうち、領収証と不照合の金額三万六、六〇〇円

(ニ) 事業税認定損七万四、二二〇円について

地方税七二条の二二の一項に基づき、昭和三九事業年度の裁決による所得金額一九七万四、一八五円に対して、所得のうち年一五〇万円以下の金額の百分の六、年一五〇万円を超え年三〇〇万円以下の金額の百分の九、年三〇〇万円を超える金額の百分の一二の事業税率を適用して一三万二、六六〇円の事業税を認定し、これより当初の更正による所得金額九七万四、一八五円に対する事業税五万八、四四〇円を減算した七万四、二二〇円を営業経費に加算した。

(3) 昭和四一事業年度

(イ) 工事原価一三一万五、〇〇〇円の否認について

原告会社代表者国分嘉一郎が昭和四〇年二月二五日旭相互銀行八幡支店より個人的に借入れた五〇〇万円の返済状況について検討した結果、左記のものについては、その弁済資金の出所が不明で他に資金源を有しないため、工事原価の架空計上による弁済と認定して工事原価を否認し、原告会社の所得に加算した。

(弁済年月日) (弁済金額)

昭和四一年五月二六日 一二万二、〇〇〇円

昭和四一年八月八日 一五万〇、〇〇〇円

昭和四二年一月五日 四〇万〇、〇〇〇円

昭和四二年一月六日 二〇万〇、〇〇〇円

昭和四二年一月二四日 四四万三、〇〇〇円

(ロ) 受取利息もれ一〇万円について

西日本相互銀行八幡支店の仮装名義による別口定期預金のうち、原田守名義分の切替による増額五万円および福原恵美子名義分の切替による増額五万円の合計一〇万円は仮装名義の別口定期預金の預金利息より発生したものと認められるので、受取利息もれとして加算した。

(ハ) 賞与引当金四九万〇、九九〇円の否認について

原告会社が確定申告の決算書で損金に計上した賞与引当金四九万〇、九九〇円は、青色申告承認の取消にともない引当が認められないことになつたので、損金計上を否認した。

(ニ) 貸倒引当金二一万〇、五〇〇円の否認について

原告会社が確定申告の決算書で損金に計上した貸倒引当金二一万〇、五〇〇円(決算書の表示は二七万四、〇〇〇円となつているが、引当限度超過額六万三、五〇〇円を原告会社は申告において自己否認し、所得に加算しているもので、実際の損金計上額は二一万〇、五〇〇円となる)は、青色申告承認の取消にともない引当が認められないこととなつたので、損金計上を否認した。

(ホ) 事業税認定損八万五、〇九〇円について

地方税法七二条の二二の一項に基づき、昭和四〇事業年度の裁決による所得金額三九二万二、八七六円に対して前記三、(二)、(2)、(ニ)と同様の方法で計算して、営業経費に加算した。

(三)  青色申告承認の取消処分の理由は次のとおりであり、適法になされたものである。

すなわち、被告は原告会社の工業原価中外注費、労務費等の支払いのために振出した手形、小切手の裏書人の流れおよび原告会社代表者国分嘉一郎個人借入金の返済資金出所等について調査を行つた結果、原告会社が外注費等を架空または過大に計上して生ぜしめた簿外資金の操作により仮装名義の定期預金を発生させる等利益の一部を隠ぺいした事実が判明したので、法人税法一二七条一項三号に該当するものとして、青色申告の承認を取消したものである。

四、被告の主張に対する原告の答弁及び主張

(一)  三、(一)の事実は認める。

(二)  三、(一)、(1)の事実中、被告主張の仮装名義の定期預金の存在することは認めるがその余は否認する。右定期預金が発生した経緯は次のとおりである。

(1) 米盛イト名義の一五万円の定期預金について

古元工務店(古元昭一の個人経営)は原告会社の工事を下請し、その下請工事代金として原告会社振出にかかる額面一五万円の約束手形一通を受領したところ、訴外国分イトは右工務店の依頼に基づき右手形を割引いたうえ、その取立を旭相互銀行八幡支店に依頼し、右取立金額をもつて米盛イト名義の定期預金にあてたものであり右国分は家賃収入約一〇万円、給料八万円合計月額約一八万円の収入の中から右割引をなしたものである。

(2) 米盛イト名義の五〇万円の定期預金について

訴外国分嘉一郎(原告会社代表者)および同国分イトは多数かつ多額の普通預金および定期預金を有するところ、従前よりたびたびこれら預金名義を変更しあるいは預金銀行を移し替えてきたのであり、右米盛イト名義の定期預金五〇万円もその例外ではなく、被告の主張する工事原価の架空計上によるものではない。

(3) 飯田俊二名義の三五万円の定期預金について

右預金は飯田宏文名義の三〇万円の定期預金(昭和四〇年二月二七日預入)および大平正浩名義の定期預金二八万円(昭和四〇年四月三〇日預入)とほぼ時を同じくして西日本相互銀行八幡支店に預金されたものであり、これらの預金の発生原因は前記四、(二)、(2)と同様である。

(三)  三、(二)、(2)、(イ)の事実中、被告主張の仮装名義の定期預金が存在することは認める(ただし福原恵美子名義の定期預金の預入年月日は後記主張のとおり昭和四〇年九月九日である)が、その余は否認する。右定期預金が発生した事情は次のとおりである。

(1) 原田守名義の二〇万円および荒井健次名義の一五万円の各定期預金について

前記四、(ニ)、(3)に主張した飯田宏文名義の三〇万円の定期預金、飯田俊二名義の三五万円の定期預金、大平正浩名義の二八万円の定期預金合計九三万円が昭和四一年二月一七日に切替えられて、新たに原田守および荒井健次名義の各五〇万円の定期預金が発生したのであるが、飯田宏文名義分三〇万円については審査請求の段階で福岡国税局長により取消され、飯田俊二名義分三五万円については昭和三九事業年度で更正の対象とされたため、残り大平正浩名儀分二八万円および右切替時における増加分(利息を含む)の内から七万円の合計三五万円が原田守名義の二〇万円、荒井健次名義の一五万円として更正されたものと思料されるところ、大平正浩名義の二八万円の発生原因は前記四、(二)、(2)と同様である。

(2) 福原恵美子名義の三〇万円の定期預金について

右預金は昭和四〇年九月九日西月本相互銀行八幡支店に預入れられたものであり、その発生原因は前記四、(二)、(2)と同様である。

(四)  三、(ニ)、(2)、(ロ)については、仮装名義の定期預金が原告会社の簿外預金であることを前提として、右預金の利息収入を更正の対象としているところ、前記のとおり右預金は個人のものにほかならないから、受取利息もれの益金計上は違法である。

(五)  三、(二)、(3)、(イ)の事実中、原告会社代表者国分嘉一郎が旭相互銀行八幡支店より個人的に金員を借入れたことは認めるが、その余は否認する。右借入金の弁済資金の発生原因は前記四、(二)、(2)と同様である。

なお、借入金は全部で九〇〇万円であるが、税務署の調査の段階で原告側の六五〇万八、〇〇〇円の弁済資金の出所説明を了解され、審査請求の段階で原告側の一一七万七、〇〇〇円の出所説明が了解されたところ、残額についても事情は同様であり、右説明済みの七六八万五、〇〇〇円の段階で原告会社の工事原価との関連で疑惑の存するものは皆無であつた事実に徹しても、残額についてはその弁済経過を明確にしえないのみであつて、会社の所得とは無関係である。

(六)  三、(二)、(3)、(ロ)については、仮装名義の定期預金が会社の簿外預金であることを前提として、右預金の利息収入を更正の対象としているところ、前記のとおり、右預金は個人のものにほかならないから、受取利息もれの益金計上は違法である。

(七)  三、(二)、(3)、(ハ)および(ニ)については、青色申告の承認の取消処分を前提とするところ、原告会社において工事原価の架空計上等によつて利益を隠ぺいした行為の存しないことは以上主張のとおりであるから、被告の右取消処分は違法である。

(八)  三、(三)の事実は否認する。

第三、証拠

一、原告

(1)  甲第一ないし第四号証、第五号証の一ないし三、第六号証の一ないし三、第七号証提出。

(2)  証人宮本幹夫の証言援用。

(3)  乙各号証の成立はいずれも不知。

二、被告

(1)  乙第一号証の一ないし一六、第二号証、第三号証の一、二、第四ないし第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証提出。

(2)  証人山口成治の証言援用。

(3)  甲第七号証の成立は不知、その余の甲各号証の成立は認める。

理由

一、原告主張の請求原因(一)、(二)、(三)の事実についてはすべて当事者間に争いがない。

二、そこで、被告のなした本件各更正決定(昭和三九年事業年度について再更正決定)の適法性について検討するに本件更正決定および審査裁決の明細については当事者間に争いがない。したがつて、以下各事業年度ごとに右更正処分内容の適法性を検討することとする(ただし福岡国税局長の裁決により取消された部分は除く)。

(一)  昭和三九事業年度

左記のごとき仮装名義の定期預金が存在することは当事者間に争いがない。

(金融機関名) (預入年月日) (預金者名) (預入金額)

旭相互銀行八幡支店 昭和四〇年一月五日 米盛イト 一五万〇、〇〇〇円

同右 昭和三九年一二月二二日 同右 五〇万〇、〇〇〇円

西日本相互銀行八幡支店 昭和四〇年三月一〇日 飯田俊二 三五万〇、〇〇〇円

被告は右定期預金はいずれも原告会社が外注費を架空に計上して支払手形を振出し、その手形の操作により発生させ、あるいはその資金の出所が不明で他に資金源を有しないため、架空の工事原価を計上する等の方法により発生せしめたものである旨主張するので判断する。

(1)  米盛イト名義の一五万円の定期預金について

証人宮本幹夫の証言によれば、原告会社の代表者は国分嘉一郎、専務は右国分嘉一郎の母国分イトであること、古元昭一は右国分イトの実子であつて、原告会社と同種の下請工事を業としていること、証人山口成治の証言、右により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一ないし一六および同乙第二号証によれば、八幡税務署による原告会社に対する税務調査の際、工事原価の中には原告会社振出の手形による決裁が相当数存したので、調査したところ、右古元昭一を第一裏書人とし最終裏書人を仮装名義とする手形が多数発見されこれに疑義が持たれたこと、昭和三九年八月三〇日原告会社は右古元あてに額面一五万円、支払期日同年一二月三〇日の手形を振出し、その最終裏書人は仮装名義米盛イトとなつていること、右手形は旭相互銀行に取立依頼されて手形交換にまわされ右支払期日と時を接して昭和四〇年一月五日米盛イト名義の一五万円の定期預金が発生していること(この点は当事者間に争いがない)を認めることができる。

原告は米盛イト名義の一五万円の定期預金について、古元工務店(古元昭一の個人経営と認められる)が原告会社の工事を下請し、その下請工事代金として原告会社振出にかかる額面一五万円の約束手形一通を受領したところ、訴外国分イトは右工務店の依頼に基づきこれを割引いたうえ、その取立を旭相互銀行八幡支店に依頼し、右取立金額をもつて右定期預金にあてたものである旨主張し、証人宮本幹夫はこれに符号する証言をなしているが、一方証人山口成治の証言、右により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一ないし一六および同乙第三号証の一、二によれば、米盛イトの一五万円の定期預金以外にも、原告会社振出にかかる裏書人古元昭一(あるいは古元工務店)、最終裏書人仮装名義の手形の取立に起因すると推定される合計約一、二〇〇万円にのぼる仮装名義の普通預金が発生し、その後一部は定期預金に切替えられあるいは他に引出されていること、税務調査当初右山口が右普通預金の流れについて訴外国分イトおよび税理士宮本幹夫に質したところ、原告会社側からは納得すべき説明がなされなかつたこと、もし右約一、二〇〇万円の金額につき右古元昭一が現実に原告会社の下請をなしたものとすれば、古元の個人所得はかなりの額に達すべきところ、同人の昭和四一年度の申告は三八万円にすぎず、昭和四二年度においては申告すらなされていないこと、国分イトの個人収入としては給料、家賃あわせて年間八〇万円ぐらいにすぎないこと(原告は右国分イトにおいて、給料、家賃あわせて月額約一八万円の収入が存した旨主張するがこれを認めるに足りる証拠はない)、原告会社の資金については専ら右国分イトが実権を掌握していたものであるが、国分イト名義の預金と対照しても右手形割引の資金源との間連性が発見できないことをそれぞれ認めることができ、これらの事実に照らすと前記証人宮本幹夫の証言は容易に採用することができないし、他に原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

同じく証人山口成治の証言によれば、原告会社は八幡製鉄の下請であり、収入金は八幡製鉄によりすべて富士銀行八幡支店に振込まれていたため、収入金には疑義がなく、疑義が存するとすれば工事原価の操作によるものであることを認めることができる。

以上認定の事実によると原告会社代表者国分嘉一郎、専務国分イト、訴外古元昭一の三人は親子であるとともに原告会社と右古元は同業であるため、その間に不正の介在の可能性を否定しえず、さらに原告会社が額面一五万円の手形を下請工事代金として右古元あてに振出しているうえ、最終裏書人が仮装名義米盛イトとなつており(しかも、他に約一、二〇〇万円もの額に達する右と同手口の手形が振出されているにもかかわらず右古元の申告所得はごく少額にすぎないことは前記のとおりである)、右手形の支払期日から数日後に右米盛イト名義の定期預金が発生しているところ、国分イトの個人資金流用を認定するに足りる証拠の存しない以上、一方において収入金の関係において不正の介在する余地が存しないことは前記のとおりであるから結局米盛イト名義の一五万円の定期預金は工事原価を架空に計上して支払手形を振出し、その手形の操作によつてこれを発生せしめたものであると推定するほかない。

(2)  米盛イト名義の五〇万円の定期預金について

原告は米盛イト名義の五〇万円について、国分嘉一郎(原告会社代表者)および国分イト(原告会社専務)の有する普通預金および定期預金の名義変更あるいは銀行移し替えにより発生したもので、原告会社の資産とは無関係である旨主張し、証人宮本幹夫はこれに符合する証言をしているけれども、一方証人山口成治の証言によれば、原告会社における経理上の実権は国分イトが掌握していたところ、右国分イト名義の預金と米盛イト名義の五〇万円の定期預金との関連性を見い出しえないので、前記宮本幹夫の証言は右に照してこれを採用せず、他に原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、右米盛イト名義の五〇万円の定期預金が国分イト名義の預金の名義変更あるいは銀行移し替えによつて発生したものではないこと、前記二、(一)、(1)認定のごとく原告会社側は工事原価を架空に計上して支払手形を振出し、その手形操作によつて仮装名義の定期預金を発生せしめていること、同じく前記二、(一)、(1)に認定のとおり国分イトの個人収入は決して多額であるとはなしえないうえ、原告会社の収入金には不正介在の余地は存しないことを合わせ考慮すると、ことさら仮装名義の定期預金を発生せしめる理由についてかならずしも明確な根拠を見い出しがたい本件においては、結局右五〇万円の定期預金は工事原価を架空に計上してこれを発生せしめたものと推定するほかない。

(3)  飯田俊二名義の三五万円の定期預金について

原告は右飯田俊二名義の三五万円の定期預金について訴外国分嘉一郎および同国分イトの普通預金あるいは定期預金の名義を変更しあるいは預金銀行を移し替えることにより発生した旨主張するところ、証人宮本幹夫の証言、右により真に成立したものと認められる甲第七号証および成立に争いのない甲第六号証の三によれば、右飯田俊二名義の三五万円とほぼ時を同じくして、飯田宏文名義の三〇万円の定期預金および大平正浩名義の二八万円の定期預金が西日本相互銀行に発生していること、右のうち飯田宏文名義の三〇万円については、審査請求の段階で訴外国分イトの有する住友銀行の定期預金口座から移し替えられたものであることが判明し、昭和三九事業年度分として裁決により取消されていることが認められ、右事実からすると一応飯田俊二名義分についても右国分イトの定期預金から移し替えられたものと推認できないではないが、一方証人山口成治の証言によれば、飯田俊二名義の三五万円については、その発生と関連する右国分イト名義の定期預金の流れを発見しえないことを認めることができ、この事実に照らすと前記証人宮本幹夫の証言はにわかには信用できないし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

かえつて、同じく証人山口成治の証言、右により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一ないし一六、同乙第三号証の一、二、および同乙第一〇号証によれば、原告会社振出にかかる手形の中に、訴外古元昭一を第一裏書人、最終裏書人を仮装名義とする手形が多数発見されたところ訴外国分イトは右手形の取立に際し、先ず僅少の金額を預入れて仮装の最終裏書人名義の普通預金口座を銀行に開設したうえ、当該銀行に取立を依頼して右口座に手形取立金を振込み、数日から一ケ月の間に右預入金を引出して右口座をいわゆる睡眠口座となしていたこと、そのうち一部については直ちに定期預金に切替えていたこと、昭和四〇年三月五日西日本相互銀行八幡支店に五〇〇円の預入れによつて飯田俊二名義の普通預金口座が発生、同日さらに三一万五、〇〇〇円払込まれたのち、昭和四〇年三月一〇日右同額が引出されていること、右引出日と前記飯田俊二名義の三五万円の定期預金の預入日とが対応していることを認めることができ、これらの事実に後記二、(二)、(1)、(イ)に認定のごとく右大平正浩名義の定期預金二八万円は原告会社振出にかかる手形(裏書人古元昭一、最終裏書人大平正浩)の取立金から発生している事実をあわせ考慮すると、右飯田俊二名義の定期預金も原告会社振出にかかる裏書人古元昭一、最終裏書人飯田俊二名義の手形の取立から発生したものと推認するのが相当である。

右認定の事実に前記二、(一)、(1)認定の事実をあわせ勘案するに、結局右飯田俊二名義の定期預金は工事原価を架空に計上して支払手形を振出し、その手形の操作によつてこれを発生せしめたものであると推定するほかない。

(二)  昭和四〇年度

(1)  工事原価六五万円の否認について

左記のごとき仮装名義の定期預金が存在することは当事者間に争いがない。

(金融機関名) (預入年月日) (預金者) (預入金額)

西日本相互銀行八幡支店 昭和四一年二月六日 原田守 二〇万〇、〇〇〇円

同右 同右 荒井健次 一五万〇、〇〇〇円

同右 昭和四〇年九月一一日 福原恵美子 三〇万〇、〇〇〇円

被告は右定期預金は、原告会社が外注費を架空に計上して支払手形を振出し、その手形の操作により発生させ、あるいはその資金の出所が不明で他に資金源を有しないため架空の工事原価を計上する等の方法により発生せしめたものである旨主張するので判断する。

(イ) 原田守名義の二〇万円および荒井健次名義の一五万円の定期預金について

証人山口成治の証言、右により真正に成立したものと認められる乙第五ないし第九号証および証人宮本幹夫の証言によれば、西日本相互銀行に飯田俊二名義の定期預金三五万円(昭和四〇年三月一〇日預入れ)、飯田宏文名義の定期預金三〇万円(昭和四〇年二月二七日預入れ)および大平正浩名義の定期預金二八万円(昭和四〇年四月三〇日預入れ)が存在したこと(ただし飯田俊二名義については当事者間に争いがない)、右三人名義の定期預金は昭和四一年二月一八日解約され、同日原田守および荒井健次名義の各五〇万円の定期預金に切替えられたこと(右切替の事実については被告の自認するところである)を認めることができ、同じく証人山口成治の証言右により真正に成立したものと認められる乙第一号証の五および同乙第八号証によれば原告会社より訴外古元昭一に対し、振出日昭和三九年一一月一七日、支払期日昭和四〇年四月三〇日、額面一二万円の手形および振出日昭和三九年一二月三日、支払期日昭和四〇年四月三〇日、額面一六万六、五九〇円の手形(最終裏書人はともに大平正浩)が振出されていること、昭和四〇年四月二二日西日本相互銀行八幡支店に一、〇〇〇円の預入によつて大平正浩名義の普通預金が発生していること、右普通預金口座に同月三〇日一二万円と一六万六、五九〇円の合計二八万六、五九〇円が払込まれ、即日二八万円が引出されていること、右引出日と時を同じくして右大平正浩名義の二八万円の定期預金が発生していることを認めることができる。

飯田宏文名義の三〇万円については、審査請求の段階で訴外国分イトの有する住友銀行の定期預金口座から移し替えられたものと判明し、昭和三九年事業年度として裁決により取消されたことは前記二、(一)、(3)認定のとおりであり、飯田俊二名義の三五万円については、昭和三九事業年度分として更正決定の対象とされたことは当事者間に争いがない。

したがつて、昭和四〇事業年度分の更正決定の対象となつている原田守および荒井健次名義の各五〇万円合計一〇〇万円中三五万円は原告会社振出にかかる二通の手形(第一裏書人古元昭一、最終裏書人大平正浩)の取立金のうち二八万円に起因することが認められる。ただし、差額七万円については、証人宮本幹夫の証言および右により真正に成立したものと認められる甲第七号証によれば、切替時における利息から発生したものと一応認められるが、一方証人山口成治の証言および右により真正に成立したものと認められる乙第九号証によれば、飯田俊二、飯田宏文各名義の定期預金切替時における利息はそれぞれ一万〇、九七一円および九、六五三円にすぎず、大平正浩名義分については二八万円の定期預入れは昭和四〇年四月三〇日であるところ(六ケ月定期)、切替日は昭和四一年二月一八日であるから、右三人名義の定期預金の切替時における利息の合計額はとうてい七万円に満たないことを認めることができる。したがつて右七万円のうち利息以外の金員がはたして何に起因するものであるかについては、かならずしも明らかでないが、左記認定のごとく訴外国分イト個人預金からの流れを認めえない以上、前記二、(一)、(3)認定の約一、二〇〇万円の普通預金の引出金に起因するものと推定するのが相当である。

原告は右原田守および荒井健次名義の定期預金の発生源である大平正浩名義の二八万円の定期預金につき訴外国分嘉一郎および同国分イトの普通預金あるいは定期預金の切替により発生した旨主張するところ、証人山口成治の証言によれば、右大平正浩名義の二八万円についてその発生と関連する訴外国分イト名義の預金の流れを発見しえないことを認めることができ、この事実に前記認定の事実を考慮すると右証人宮本幹夫の証言は信用できないし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

以上認定の事実に前記二、(一)、(1)認定の諸事実をあわせ勘案すると、結局のところ、右二、(一)、(1)に述べた同じ理由で原田守名義の二〇万円および荒井健次名義の一五万円の定期預金(これは原田守および荒井健次名義の各五〇万円合計一〇〇万円中の三五万円を更正決定の対象となす便宜上かように分解したものである)は、左記部分を除くほか、工事原価を架空に計上して支払手形を振出し、その手形の操作によつてこれを発生せしめたものと推定すべく、右限度において工事原価を否認して所得に加算したことは適法である。

ただし、飯田宏文名義の三〇万円については、審査請求において訴外国分イトの預金であると認められたところ、右三〇万円から発生した預金利息九、六五三円が原田守名義の二〇万円および荒井健次名義の一五万円の中に含まれていることは、右認定のとおりであるから、右両名の定期預金額合計三五万円のうち九、六五三円については工事原価を否認することは違法であるといわざるをえない。

(ロ) 福原恵美子名義の三〇万円の定期預金について

証人山口成治の証言、右により真正に成立したものと認められる乙第一号証の六および同乙第四、五号証によれば、原告会社より訴外古元工務店(古元昭一)に対し、振出日昭和四〇年五月四日、支払期日同年八月三一日、額面三六万〇、〇〇〇円の手形(最終裏書人は仮装名義人小田博)が振出されていること、昭和四〇年九月二日西日本相互銀行八幡支店に一、〇〇〇円の預入れによつて小田博名義の普通預金が発生していること、右普通預金口座に同月二日三六万〇、二〇〇円が振込まれ、同月一一日利息をあわせ三六万一、三七七円が引出されたうえ右口座は閉鎖されていること、右引出日と時を同じくして福原恵美子の定期預金(三〇万円)が発生していることを認めることができる。

したがつて、福原恵美子名義の三〇万円の定期預金は原告会社振出にかかる額面三六万〇、〇〇〇円の手形(第一裏書人古元工務店、最終裏書人小田博)の取立金に起因することを推認することができる。

原告は右福原恵美子名義の定期預金につき、訴外国分嘉一郎および同国分イトの普通預金あるいは定期預金の切替により発生した旨主張し証人宮本幹夫はこれに符合する証言をなしているけれども、証人山口成治の証言によれば、右国分イトが原告会社の経理上の実権を掌握していたところ、右福原恵美子名義の定期預金について、その発生と関連する右国分イト名義の預金の流れを発見しえないことを認めることができ、この事実に前記推認の事実をあわせ考慮すると、右証人宮本の証言はにわかには信用できないし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

してみると、結局のところ、前記二、(ニ)、(1)、(イ)と同じ理由で右福原恵美子名義の三〇万円の 期預金は工事原価を架空に計上して支払手形を振出し、その手形の操作によつてこれを発生せしめたものと推定すべく、右限度において工事原価を否認して所得金額に加算したことは適法である。

(2)  受取利息もれ二万六、五四三円(米盛イト名義の一五万円の定期預金分)および七、五〇〇円(同名義の五〇万円の定期預金分)合計三万四、〇四三円について

米盛イト名義の一五万円および五〇万円の定期預金は原告会社が工事原価を架空に計上することによりこれを発生せしめたものであることは、前記二、(一)、(1)に認定のとおりである。

してみると、証人山口成治の証言および右により真正に成立したものと認められる乙第二号証によれば、右米盛イト名義の一五万円の定期預金については昭和四〇年一二月二二日に二万六、五四三円、同名義の五〇万円の定期預金については昭和四一年一月五日に七、六六三円の利息(所得税控除)がそれぞれ発生していることを認めることができる。

しかしながら、本件更正決定により計上された受取利息もれは現実に発生したそれに比して少額で原告会社により有利であるから、右受取利息もれの計上を違法とすべき謂れはない。

(3)  交際費三三万六、六〇〇円の否認について

これについては、原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

(4)  事業税認定損額七万四、二二〇円について

原告会社の昭和三九事業年度における所得金額を二二〇万四、一八五円とした本件再更正決定が適法であること(ただし福岡国税局長の裁決により取消された部分三〇万円を除く)は前記二、(一)認定のとおりである。

右昭和三九事業年度における所得金額の増加にともなう事業税の増額分を地方税法七二条の一二、七二条の二二の一項および二〇条の四の二によつて計算すると次のとおりである。

(1,500,000円×0.06)+(474,00円×0.09)=132,660円

974,000円×0.06=58,440円

132,660円-58,440円=74,220円

したがつて、右七万四、二二〇円を昭和四〇事業年度における損金として営業経費に加算したことは適法である。

(三)  昭和四一事業年度

(1)  工事原価一三一万五、〇〇〇円の否認について

成立に争いのない甲第五号証の二、同甲第五号証の三、証人山口成治の証言、右により真正に成立したものと認められる乙第一二号証の一ないし三、証人宮本幹夫の証言および右により真正に成立したものと認められる甲第七号証によれば、訴外国分広(原告会社代表者国分嘉一郎の弟)が昭和三九年一二月一〇日西日本相互銀行八幡支店より四〇〇万円を、右国分嘉一郎が昭和四〇年二月二五日旭相互銀行八幡支店より五〇〇万円をそれぞれ借入れたこと、昭和四〇年八月二七日から、昭和四二年一月二四日にかけて右金員の弁済がなされたと、八幡税務署の税務調査の段階で右弁済資金の出所に疑問が持たれた結果、その出所が明らかでない昭和四〇事業年度分三〇万七、〇〇〇円、昭和四一事業年度二一八万五、〇〇〇円について、工事原価の架空計上によるものと認定されて更正決定により工事原価を否認されたこと、審査請求の段階において昭和四〇事業年度分については全額、昭和四一事業年度分については八七万円の限度において、弁済資金源が判明したとして右更正決定は一部裁決により取消されたこと、その結果工事原価否認額は昭和四一事業年度分一三一万五、〇〇〇円となり、右弁済額の内訳については、昭和四一年五月二六日一二万二、〇〇〇円(西日本相互銀行への弁済)、昭和四一年八月八日一五万円、昭和四二年一月六日二〇万円、昭和四二年一月二四日四四万三、〇〇〇円(以上旭相互銀行への弁済)であることを認めることができる。

原告会社振出にかかる手形の中に、訴外古元昭一(または古元工務店)が第一裏書人、最終裏書人が仮装名義のものが多数発見されたところ、訴外国分イトは右手形の取立に際し、先ず僅少の金額を預入れて仮装の最終裏書人名義の普通預金口座を銀行に設けたうえ、当該銀行に取立を依頼して右口座に手形取立金を振込み、数日から約一ケ月の後右預入金を引出して右口座を睡眠口座となしていたこと、そのうち一部については直ちに定期預金に切替えていたこと、右普通預金の動向は合計約一、二〇〇万円もの額に達していたことは前記二、(一)、(1)あるいは(3)に認定のとおりであり、さらに証人山口成治の証言、右により真正に成立したものと認められる乙第三号証の一、二によれば、右普通預金引出しは昭和四〇年一月三一日から昭和四二年九月二五日までの間にわたつてなされていること、右普通預金から引出した金員のうち一部については、さらに仮装名義の定期預金に切替えられているところ(この点については前記二、(一)等に認定のとおりである)、残部については引出し後の使途不明のものが存すること、税務署による税務調査の際、右山口成治において右使途不明分につき原告側に質したところ、明確な説明がなされなかつたことを認めることができる。

さらに証人山口成治の証言、右により真正に成立したものと認められる乙第一二号証の一、二および同乙第一三号証によれば、原告会社が前記弁済資金源として、一部口頭による説明をなしたものにつき、右山口において反面調査の結果、一つは資金源が判明したものの、他の一つについては右説明に虚構の存したことを認めることができる。

以上認定の事実によれば、右一三一万五、〇〇〇円の弁済資金源は、原告会社振出にかかる、第一裏書人が古元昭一、最終裏書人が仮装名義である手形の取立金に起因する仮装名義普通預金にほかならないことを推認することができ、右推認の事実に前記二、(一)、(1)認定の諸事実をあわせ勘案するに、結局のところ、右一三一万五、〇〇〇円の弁済は、原告会社において、工事原価を架空に計上して前記支払手形を振出し、その手形の操作によつて架空名義の普通預金を発生せしめ、右普通預金からの引出金をもつてこれををなしたものであると推定するのが相当である。

(2)  受取利息もれ一〇万円について

(イ) 原田守名義の五〇万円の定期預金の切替による増額分五万円について

昭和四一年二月一八日に発生した原田守名義および荒井健次名義の各五〇万円の定期預金が飯田俊二名義の三五万円、飯田宏文名義の三〇万円、大平正浩名義の二八万円(合計九三万円)の定期預金の切替(ただし差額七万円については切替時までの預金利息および他の仮装名義普通預金からの引出金)に起因すること、飯田宏文名義の三〇万円については審査請求の段階で訴外国分イトの定期預金から移し替えられたものと判明したこと、切替時までの利息中九、六五三円については右飯田俊二名義の三〇万円から発生した利息であることは前記二、(ニ)、(1)、(イ)に認定のとおりである。

したがつて、原田守および荒井健次名義の各五〇万円合計一〇〇万円のうち工事原価の架空計上に起因するものは六九万〇、三四七円であるところ、証人山口成治の証言および右により真正に成立したものと認められる乙第六号証によれば、右原田守名義の五〇万円の昭和四二年二月二一日の切替による五万円の増額分は右原田守および荒井健次名義の各五〇万円の切替時(ともに昭和四二年二月二一日)までの利息を加算したものと認められるから、右五万円のうち、工事原価の架空計上に起因すると認められる六九万〇、三四七円に関して発生した利息を計算すると次のとおりである。

〈省略〉

したがつて三万四、五一七円については、これを受取利息もれとして、昭和四一事業年度における所得に加算したことは適法であるが、残余の一万五、四八三円については違法であるというべきである。

(ロ) 福原恵美子名義の三〇万円の定期預金の切替による増額分五万円について

右福原恵美子名義の定期預金(昭和四〇年九月一一日預入)は原告会社が工事原価を架空に計上することによりこれを発生せしめたものであることは前記二、(ニ)、(1)、(ロ)に認定のとおりである。

証人山口成治の証言および右により真正に成立したものと認められる乙第四ないし第六号証によれば、右福原恵美子の三〇万円の定期預金が昭和四一年九月一四日の切替によつて五万円増額していることを認めることができ、右事実に前記二、(三)、(2)、(イ)認定の事実をあわせ考慮すると、右五万円の増加分は利息を加算したものであることを推認することができるが、一方同じく証人山口成治の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証によれば、右定期預金の利率は年五分五厘であるから、利息のみをもつてしては右増加分を満しえないことを認めることができる。したがつて、右五万円のうち利息以外の金員がはたして何に起因するものであるかについては前記二、(二)、(1)、(イ)の場合と同様かならずしも明らかでないが、右の場合に認定したのと同様、本件約一、二〇〇万円の仮装名義の普通預金の引出金に起因するものと推定するのが相当である。

したがつて、右五万円について、これを受取利息もれとして、昭和四一事業年度における所得に加算したことは適法である。

(3)  賞与引当金四九万〇、九九〇円および貸倒引当金二一万〇、五〇〇円の否認について

被告が原告に対し、原告の昭和三九事業年度以降の青色申告の承認を法人税法一二七条一項三号により取消したことが適法であることは、後記三に認定のとおりであるところ、同法五二条、五四条によれば貸倒引当金および賞与引当金の計上は青色申告の場合に限定されるのであるから、青色申告の承認が取消された本件においては、右引当金の損金計上を否認したことは適法である(なお、昭和四三年四月二〇日施行の昭和四三年法律第二二号により、法人税法が一部改正されて、貸倒引当金および賞与引当金の計上は青色申告に限られないことになつたところ、同法一二七条一項三号による青色申告承認の取消は、取消事由発生の事業年度にまでさかのぼつて取消すことができるのであるから、昭和三九ないし四一事業年度における右引当金の損金計上を否認したことは適法である。)。

(4)  事業税認定損八万五、〇九〇円について

原告会社の昭和四〇事業年度における所得金額を四二〇万二、八七六円とした本件更正決定が適法であること(ただし福岡国税局長の裁決により取消された部分二八万円を除く)は前記二、(ニ)認定のとおりである。

昭和四〇事業年度における右所得金額の増加にともなう事業税の増額分を地方税法七二条の一二、七二条の二二の一項、および二〇条の四の二によつて計算すると次のとおりである。

(1,500,000円×0.06)+(1,500,000円×0.09)+(922,000円×0.12)=A円

(1,500,000円×0.06)+(1,500,000円×0.09)+(313,000円×0.12)=B円

A円-B円=(922,000円×0.12)-(313,000円×0.12)=73,080円

昭和四一事業年度における事業税認定損額が更正決定において一〇万九、六七〇円と認定され、福岡国税局長の裁決によつて一部取消されて八万五、〇九〇円とされたことは当事者間に争いがない。

しかしながら右更正決定による事業税認定損額(ただし福岡国税局長の裁判により一部取消された部分を除く)は前記計算に基づく真実のそれに比して多額で原告会社により有利であるから、被告のなした本件更正決定はこれを違法とすべき何等の謂れもない。

三、次に被告のなした本件青色申告の承認取消処分が適法になされたか否かについて判断する。

昭和三九ないし四一事業年度において、原告会社が、工事原価を架空に計上した結果生じた簿外資金の操作により、仮装名義の預金を発生せしめあるいは借入金の弁済資金にまわすなどして、当該事業年度の利益の一部を会計帳簿に益金として計上しなかつたことは、前記二、認定のとおりである。

したがつて原告会社において、右工事原価の架空計上によつて、益金を一部隠ぺいしたことは明瞭であるから、法人税法一二七条一項三号に該当するものというべく、被告の原告会社に対する本件青色申告承認の取消処分は適法である。

四、以上の次第であるから、昭和四〇事業年度における法人税につき、その所得金額を四二〇万二、八七六円とした更正決定のうち、工事原価の損金計上を否認した部分は九、六五三円の限度において、昭和四一事業年度における法人税につき、その所得金額を八五四万三、七七四円とした更正決定のうち、受取利息もれを益金に計上した部分は一万五、四八三円の限度において違法であるからこれを取消すべきであるが、昭和三九事業年度における再更正決定(ただし福岡国税局長の裁決により取消された部分を除く)および昭和三九事業年度以降の原告の青色申告承認の取消処分については何らの違法は存しない。

よつて、原告の本訴請求は右の限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田富士也 裁判官 内藤紘二 裁判官吉武克洋は転勤につき署名押印できない。裁判長裁判官 松田富士也)

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